
暮らすことで、風景が育つ
この日行ったのは、私たちがクロマツプロジェクトとともに取り組む“微生物舗装”のワークショップです。
土中に空気と水の流れをつくり、植物が根を張り微生物が豊かに棲める環境を整えるこの舗装は、コンクリートやアスファルトとはまったく異なるもの。
使ったのは、割栗石、燻炭、竹炭、落ち葉。重機ではなく、手で、顔を土に近づけながら、風の通り道をつくるようにひとつずつ積んでいく。土や炭にふれたその感触、香り、懐かしさを感じる原風景を想起させるような、まるで「風景を耕す」ような感覚、これこそが未来へ向けて残していく価値。
手作業で積み上げる割栗石。風や水の通り道をつくる、原風景に触れる手のひらの感覚。
「風景を再生する」住宅とは
セットが掲げるミッションは、「まちの生態系を紡ぐ」。
今回のプロジェクトは、ただの外構デザインや植栽計画ではありません。
湘南の風景のなかでも特に象徴的な「クロマツ林」や「玉石積み」といった要素を、現代の住宅地にどう再生し、次世代へと継承していけるか。そんな問いを軸に、私たちはランドスケープデザイナー・岡部真久さんが主宰するクロマツプロジェクトとパートナーシップを結びました。
岡部さんは、かつての湘南が持っていた「原風景」を現代の暮らしに溶け込ませるような風景を手がけてきた方。今回セットとともに目指すのは、分譲住宅の開発でありながら、“暮らすことで風景が育ち、地域環境が豊かになる”という、新しいまちづくりのあり方です。
玉石積み、松林。懐かしさを感じる原風景を現代の暮らしに溶け込ませる要素である。
呼吸する地面、森のシステムをまちへ
なぜ微生物舗装なのか。
その問いに対する答えは、土の中にあります。
森に入ったとき、なんだか「気持ちいい」と感じるのは、微生物多様性がもたらす快適さのせいだと言われています。皮膚にいる常在菌も多様になり、ウイルスが増殖しにくくなるような状態が保たれているから。
つまり、微生物が豊かであることは、人にとっても自然にとっても「安全で心地よい環境」だということ。
私たちは、こうした森のシステムを住宅の外部空間へと取り入れ、“呼吸する地面”をつくることに挑戦しています。
微生物舗装が水を浸透・蒸発させ、風を生み、周囲の微気象を整える。
その結果、建物の内部に風が入る。温熱環境にもいい影響がある。
これは単なるデザインではなく、暮らしの機能を支える「パッシブデザイン」の一部でもあります。
竹炭・もみ殻・落ち葉。微生物の棲み処となる素材たち。自然と人が協働して舗装が完成する。
「建てること」が、まちを豊かにする行為へ
セットの家づくりは、建物そのものだけでなく、風景や生態系との関係性にまで及びます。
住まいをつくるとは、本来、土地の記憶と折り合い、未来の風景を描く営みであるはずです。
セットとクロマツプロジェクトが目指すのは、「建てることでまちが傷つく」のではなく、「建てるほど、風景と生態系が豊かになる」まちづくり。
分譲住宅という枠を超えて、湘南らしい原風景を未来へ紡ぎ、これからも「どこか懐かしい、でもどこにもない場所」を生み出していきます。